2008年10月21日

SZと水の町

SZと水の町

40歳頃、バリバリと排気音を撒き散らすような営業マン時代、ある山の町にある
制御系ベンチャーともいえる友の会社を訪ねた。
街という表現は都会を表すのに使い、町はもっと丸みと人情を持つ場所に使う。

彼の町は町といえる暖かさと素朴さを持つ山間の水清き町である。

「迎えにいきますよ」と言われて駅を出ると、驚いたことに彼(ら)の趣味である奇
妙かつ醜悪とも思っていた車が待っていた。
アルファロメオSZである。 

アルファにザガート(ボディメイクもするチューナー)が手を加えたスペシャルであり
当時ではありえない6灯を持ち、極端に短い車がうずくまってそこにいた。

「SZですね」と言えばしてやったりとニヤリとして、車に誘う。
彼の興した会社は社員誰もが車が好き、その上制御系が好きというスタッフが集
まり、いわばスポーツ走りを楽しんでいる。

旅に電車を選んだのは遠いからという理由であったのだが、想像で5時間くらい
かかるでしょうという彼の町から浜松までを「2時間半かな」とうそぶくみなさんに
はありえそうだと思うばかりなのである。
なにしろ社長がSZに乗るのだから。

SZはガチカタ、麺であればバリカタである。

短いホイールベースに納めたのは回頭性を高める為であり、乗り心地などは頭か
ら考えられていず、助手席に納まると体は潜り込んでしまい、揺さぶられる。
カタカタカタと内装がビビるので、押さえれば、それはベニヤなんだとか段ボール
製ではないかと言われる。

いわゆる軽量化の結果である。

幾種類かの車の中で見た目の醜悪さでいえば当時のSZはその最たるもので
どう見ても6灯などという異形の上に、短く、ガラスエリアの極端な小ささは容易
に「危険」を思わせた。

二本の手、二本の足、二つの目などとう人間標準を外れた生物を怖がるのが人
間なのだというが、まるでクモや蛇と同じ種類のような怖さを持っていた。

異形の怖さ+アルファ・ロメオであれば、それはどう形容すべきなのかと思ううち
に会社に着いた。
すっかりビビッた自分をスタッフの皆さんが迎えてくれた。

帰路はスタッフの一人が、なんてことない商用バンで送ってくれたのだが、その
バンの走りはさらに怖かったことを覚えている。

急速に社業を伸ばしていった頃の友の会社は誰もが前のめりで最速であった。
もう10年ほど前のことである。


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