2008年09月17日
澄んだ空へ

「もう寝ちゃうわよ」
ガレージのドアから妻の呆れ顔が見えても、手放せない玩具はある。
カチャカチャとラチェットレンチを使い、フッとプラグを抜いて光に翳す。
明日の朝とて、磨き上げた車を埃にするつもりはない。
それでもシートをかける前に充分に確認したつもりでも、かけては外し
またかけてガレージを出るのは真夜中をとうに過ぎている。
男はこういう玩具をしまいこんでいて、いつでも使えるようにしておくも
のなのさ
「おはよう 早いわね」、コーヒーを飲み新聞を隅々まで読んでも起き
てこなかった妻をちょっとなじろうと思いつつ、「コーヒーうまいぞ」と
そそくさと、妻のカップに満たす。
「本当に行くの?」 「ああもちろんさ」
「動くの?」 「ああもちろんさ」
山に向かう空が山の縁までくっきりと見えている早朝である。
「お休みの日の6時は早すぎる」、妻は洗面所に消え、何杯目かの
コーヒーを飲みながら待っている。
「寒いかしら」と着替えを追え、心と同じ震動をする車に妻が向かって
くる。
「さあ どうぞ奥様」、小さなドアを開け、そこはエレガントに乗り込ん
でくれる妻に感謝する。
「山へ向かっていくぞぅ!」、長いシフトレバーをぐいっと押し込んで
スパイダーは走り出す。
「いかがですかな奥方」、「うん、暖かいワ」
妻とのドライブに用意したブランケットはシートを越えて俺の膝まで暖
めてくれる。
まだ誰も走っていない休日の道は山へと続いている。
髪をうまくまとめた妻にもきっと似合っているはずなのさ。
「何が?」、独り言を聞きつけられてしまう。
「俺に」
スパイダーは山と空を手に入れて走り続けている。
Posted by もとお@SEAES at 00:25│Comments(0)
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