毎晩のこのコラムは車評などではなく、限りなき車との旅を書いている。
その車のオーナーになりその車に乗って何をしたいのか、そこに浮かびあがって
くる景色を書いてみる。車は現代のものから旧きものまで限りなくあり、ゆえに終
わりなき旅ができるのである。
いっそう寒くなってきたこの季節は毎年旅に行きたいと思う頃である。
それも伊豆だ。
かつて伊豆を仕事場の一部としていた頃、週に二日は伊豆にいた。もちろん仕事
もしたがとっぷり西伊豆に夕日が沈めば帰路は自分の時間である。
調べておいた旅館を見にいったり、許されれば温泉に入れていただいたりと限り
ない伊豆の探訪を深めていった。
その伊豆に久しぶりに行こうと思わせたのがミニクラブマンである。
この観音開きのバックドアに小さなカバンを放りこむことからはじまる小さな旅に
出る。
伊豆の道はアップダウンの連続でかつ主なる道路を外れれば狭い道が多い。
路肩も狭く、大排気量の大型車などで走ったらつまらない。
ワインディングを行くには適度なコンパクトがよく、買い物をしたものを放りこむ小さ
なスペースを持ち、そこには専用の温泉道具セットを積んで行く。
下田の手前蓮台寺にお気に入りの温泉がある。
河津にはいつも立ち寄るラーメン屋さんがある。
下田から松崎に通ずるお気に入りの道もあり、夕日を見たり、湾越しの富士を見
る岬もある。
どこの道も小さくカチッとした車が似合う、お供は一人までで充分なのだ。
温泉に浸かり、ほどよく湯にあたり、充分休息してまた走り出す。
地元の人が行く鮨やさんに行く、久しぶりにかつてのお客さんを訪ねる。
ちょうどよい車は運転を飽きさせず、少し固めの足は次なる目的地へのドライブを
楽しませてくれる。
伊豆に行きたい、贅沢な旅でなくともよい。適度にタイトな車、そして関係で車を
飛ばしたい。湯気の中にとけていきたい。