「レビンにしたんだ」
友達のT君は高校時代からうまが合う友人で、学生と職人と身分は違って
も東京の暮らしではいつも終末に会っては一緒に過ごしていた。
立派な会社に就職し、通勤用に買った車が初代のカローラレビン、深緑色
のオーバーフェンダー付のちょっと気合が入った車だった。
「うーん、こんな車でいいのかい」、「ああ新人は駐車場も遠いからいいんだ」
いつもちょっとだけワルが入るのが彼のクセであり、夢でもあった。
それでいてとても優しいから、男女問わず人気があるのだ。
パワフルな”音”がする車は足回りが固めてあり、彼が住む農村部ではガタ
ガタと車体と乗っている僕らをゆさぶり、それはそれで楽しく、どこまでも走っ
てゆく。「こんなのにSちゃん乗せるのかい?」
彼には長いガールフレンドがいたのです。
高校の先輩と長くつきあっていたT君は、就職とともに結婚も決め、皆でお祝
いをした。二人とも仲間が多く、その二人の結婚に驚くほどの多くの仲間が
集まった。ちょっとヨゴレが入った彼と面倒見がいい清潔な彼女。
ちょっとイイナというカップルのゴールインは結婚の夢を大きくしたものでした。
新婚旅行から帰っただろう頃、冷やかしついでに新居を訪ねた。
それもみんなで引越しを手伝ったから誰もが知っている新築のアパートでした。
新居の陽だまりにT君は一人いた。何もかわらない飄々とした顔でいた。
「Sちゃんは?」、「うん」、「でかけてるのかい」、「うん」
「帰ってこないかもしれない」、「えっ?」
長くつきあった二人だけれど、新婚旅行で言い合ってしまったという。
少しヨゴレが入った彼は彼女が潔癖なことを知った。許せないことをその日に
知ったのでした。
レビンはちょっとヨゴレとワルを持つ車でした。帰ると手を何回も洗う彼女には
許せないのでした。
そしてT君は再び、ヨゴレだらけのレビンで走りだしたのでした。